2011-06-21
by Yla

てっぺんかけたか

ひと月ほど前から、よく耳にするようになった鳥の鳴き声がある。
まるでリバーブをかけたようによく響く独特の節回し、
そのせいか、わりと空の高いところで聞こえる気がする。

 

その声がいつものように聞こえてきたある時、 ふと、なにかが腑に落ちた。
ああ、これが「てっぺんかけたか」か、、、。
頭の中に、昔読んだマンガのひとコマがよみがえった。

 

「てっぺんかけたか」と鳴く鳥がいる。
その事を僕が知ったのは昔読んだ楠勝平のマンガからだった。
たしか70年代はじめ頃の「COM」か「ガロ」に掲載されていた短編作品のひとつだったと思う。
今となっては、そのタイトルもストーリーもほとんど覚えていないのだが、
鳥飛ぶ空に「てっぺんかけたか」の鳴き声が大きく描かれたそのページだけは
とても印象に強く残っている。
そこで、記憶を確かめるためにも、昔の掲載誌をもう一度読もうと思ったのだが、
いかんせん僕のマンガコレクションは、
引っ越しの際に段ボール詰めされ倉庫の奥に仕舞い込まれたまま、、、
残念ながら断念した。

 

楠勝平は江戸時代を舞台に、
そこに生きる庶民の悲喜こもごもの暮らしぶりを描いた作家だった。
生や死、悲しい事や可笑しいこと、良い事や悪い事、人情や裏切りや失敗、、、
それらに彩られた様々な人生が、その作品には淡々と描かれていた。
洒脱なその作品を読むたび、当時の僕は子供ながらも、
ある種の無常観を感じていたように思う。

 

そしてもうひとつ、強く氏の作品から受けた印象が「粋」であった。
軒先を見上げると、空を高く鳥が鳴く。
「てっぺんかけたか」 
見上げる市井の人々はやがて来る季節の到来を知る。
この描写ひとつにも、そんな「江戸の粋」をなんとなく感じて、
きっとそれが強く心に残っていったに違いない。
もちろん当時の僕には、そんな「粋」なんていう概念は
ほとんど理解出来てなかっただろうけど、、、。

 

楠勝平、「COM」や「ガロ」で活躍したこの不世出の作家は、
1974年、30歳という若さで夭逝した。
という事は、当時僕が読んでいた作品群は20代後半に描かれたものになる。
うーむ、よくその若さで、あんな作品が描けたもんだ、、、と唸らずにはいられない。

 

 

さて、話を「てっぺんかけたか」に戻すと、、、
調べてみると、声の主は「ホトトギス」。
あの「鳴いて血を吐くホトトギス」「正岡子規の不如帰」
「鳴かぬなら殺してしまえ、、、」 のホトトギスであった。
ははあ、なるほど、 この辺りには竹薮が多いし、そこを住処とするウグイスも多い。
ウグイスの巣に托卵するというホトトギスにとっても絶好の棲息地なのだろう。

 

「ほーほけきょ」と春を告げるウグイスが鳴き、
しばらくしてから 「てっぺんかけたか」のホトトギスが初夏を告げる。

 

「うす墨を 流した空や 時鳥(ホトトギス)」一茶

 

梅雨があければ、もうすぐ夏だ。

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