レッツゴーおとりさま
毎年この時期、巷を賑わす風物詩のひとつに「酉の市」というものがある。
「酉の市」は、11月中の酉の日に各地の神社で行われるお祭り。
その起源は日本武尊(ヤマトタケル)の戦勝祈願や祝勝を、
鷲神社(おおとりじんじゃ)で行ったものを祖にしているというから、
めっぽう由緒正しいお祭りにはちがいないが、
やはり江戸時代あたりから「おとりさま」として庶民に親しまれ、
「商売繁盛」や「家内安全」を祈願してお参りするというのが、
我々がイメージするところの酉の市だろう。
有名なのは浅草の鷲神社、新宿の花園神社、目黒の大鳥神社あたりか、、、。
この場所柄からも、関西出身の僕にとっては「酉の市」と言えば、
じつに「東京っぽい“粋”なお祭り」というイメージであり続けてきたのだった。
その昔まだ若かりし頃、新宿歌舞伎町かゴールデン街あたりでしたたかに酔っ払い、
迷い込んだ花園神社で、招福熊手がひしめき合う豪華絢爛な異空間に
ふっとまぎれ込むという体験をしたことがある。
酩酊状態で、今ではもうどこからが現実でどこからが夢だったのか、よく分からなくなっているのだが、
酔眼で眺めためくるめく視覚的恍惚体験が僕にとっての「おとりさま」の原体験となっている。
さて、そんな酉の市に今年は出かけることにした。
地元目黒の大鳥神社。
なんせ100年に一度の大不況ということもあり、縁起物の熊手売りがびっしりと並び、
その合間を招福の吉兆をもとめる善男善女が行きかい、なかなかの賑わいを見せている。
当然わがイラテック一同(と言っても二人)もそんな善男善女の一員であり、
来年こそは良い年になりますように…の願いを込め、今年初めて縁起熊手を買ってみようという腹積もりだ。
熊手の値段はピンキリで、千円くらいのちゃっちいものからン十万する威風堂々たるものまで。
熊手初心者の我々としては、予算は3千円くらい、、、
ちょっとセコイが、あんまりデカイものを買っても置き場所に困るもんね、と自分相手に弁解する。
で、まずは気に入った熊手を求めて境内を一周。
あれこれ迷って、もう一周、、、。
ところで、そもそもなんで熊手なのか?
これも日本武尊が戦勝を祈願して武具の熊手を奉納したという、もっともらしい由緒もあるのだが、
それよりも熊手のその形状から「福をかきこむ」連想をさせ、
それが縁起物として定着した由縁だろうと思われる。
で、その熊手にびっしりとデコレートされた様々な縁起物の数々……これがなんともでニギヤカで楽しい。
まさにジャパニーズ・キッチュ、ジャパニーズ・ジャンク感満載のラインナップだ。
まずはなんと言っても「おかめ」のお面。
おかめは別名「お多福」であるからして福多くして縁起良しの代表格だ。
お多福の田楽ダンスのパートナーである「ひょっとこ」は、たどると「火男」であるからして、
顔は面白くても別に縁起とは関係ないので、この際出番はなし。
その他には「打ちでの小槌」に「大判小判」、「招き猫」に「七福神を乗せた宝船」、
「鯛」に「射的の矢」に「黄金の俵」と、、、
さながら縁起物のヒットパレードである。
さて、迷いに迷った末に、やっとこれぞと決めた熊手を手に取り、
売り手のオヤジとの丁々発止のやり取りが始まる。
「これいくら?」
「お目が高いね、2万円!」
「そんなワケないでしょ、この大きさで。ホントはいくら?」
「ホントは5千円と言いたいところだけど、オマケしちゃおう4千円」
「もう一声、3千円にならないか!」
「うーーーん、わかった。3千円で売っちゃおう!」
と、勢いよく値段がきまった所で、プラス千円をご祝儀として渡す。
つまり、向こうの言い値の4千円で買ったことになるのだが、
こっちはご祝儀を出して、ちょっとしたお大尽気分を味わいつつ売買成立という形になる。
これが、正統派熊手の買い方らしいのだが、実にイキなやり取りだ。
で、売買成立の祝いと、買った人たちの招福を祈念して、
お店の人たちと客の一同で三三七拍子の手締めとなる、、、。
うーーーん、このへんも実にイキですね。
さて、予算は少しオーバーしたものの、そんなこんなのやりとりで、我が家のリビングに収まった縁起熊手。
鯛や弓矢や小判や打ち出の小槌に松と一通りの縁起物は揃っているのだが、
特に気に入ったのは、本来お多福が収まる位置に、お面の代わりに一升枡が鎮座しているところ。
一升枡が対角線で斜めに区切られ、その中に恵比寿大黒が収まっている。
で、その意図を聞いてみると、、、
恵比寿大黒揃い踏み、一升マスを半分で区切って、枡枡半升(ますますはんじょう)…ますます繁盛…。
うーーーーん、ここまでくると七福神のおめでた駄洒落の大喜利だあ。
「ウマイ!!山田くん、布袋様に座布団三枚やっとくれ!」
お後がよろしいようで、、、。