2015-12-19
by Yla

杉本博司の床


この前、蝉が鳴いていたと思ったらもう師走の大詰めだ。
時間が過ぎるのが早くて嫌になってしまうよ、ほんとに。
このところは、 手塚眞監督の新作映画関連の仕事をやらせてもらっていてやや忙しく、
その上、あれやこれやとやらなければならない野暮用も山積みで まさしく師走の慌ただしさだ。

 

さて、そんな中ではあるが、これだけは見逃す訳にはいかないと、
閉会間近の杉本博司展『趣味と芸術―味占郷 / 今昔三部作』に なんとか出かけて行くことができた。
久しぶりの千葉美術館。
会場に入るとまずはドーンと「海景」に取り囲まれる(冒頭の写真)。
鉛の額に納められた大判プリントが作り出す重厚な空間は まさに静謐そのもの。
あっという間に、師走の慌ただしさが頭の中からスポーンと抜けていった。

 

そして「劇場」「ジオラマ」の大作品展示が続く。
いずれも、数十年かけて撮り続けられている氏の代表作とも言えるシリーズ作品で
そのシリーズ最初の作品と、最新作が含まれる所謂「今昔三部作」。
なかでもジオラマ新作の「オリンピック雨林」が、でかくてすごい。
確かに写真の中では偽物のジオラマが本物以上に本物に見える。

 

階を降りると本展覧会の目玉「趣味と芸術―味占郷」だ。
(千葉美は7階8階に分かれている)
これは、杉本博司が架空の料亭の亭主に扮し、
様々なゲストを、床の間のしつらえと料理でもてなすという、
婦人画報誌に連載された企画「謎の割烹、味占郷」を再現したもの。
そこで考案された床のしつらえや、 料理を供するのに使われた器などが展示されている。
で、これが素晴らしいのひとこと… こんな感じです。

お盆の中にちっちゃなお釈迦様が

こちらは西洋骨董のキリスト像。軸は建築家、堀口捨己の短歌

 

かつては古美術商を営んでいたという目利きの杉本博司ならではのコレクション、
軸や置物、自らの作品などが織りなす(料理を含め)絶妙の組み合わせや、
はたまた斬新な組み合わせの数々…。
それらを支配する圧倒的な美意識にうっとりするやら、
はたまたそこかしこに見え隠れするユーモアににんまりするやらで
まるで夢を見ているかのようなひと時を過ごした。

一番右の軸は女性の背中の解剖図ですね。

 

なお、展覧会では 生花を使えず、ということで花は須田悦弘の木彫作品が使われている。
不勉強ゆえ、この作家のことを知らなかったのだが、本物と見紛うばかりの草や花を木彫で作り出し、
一風変わった展示の仕方で見せる現代美術作家とのこと。
で、この繊細な細工を施された草花が本当に美しい。
そして、前述の杉本博司が作り出したしつらえの中に、
ぴったりと収まり、えもいわれぬ趣きを見せていた。

 

これは、本展覧会のためのしつらえか、銅の大升に、泰山木の花(木彫)。

 

ところでこの展覧会、写真撮影OKということで、
しずーかで、おごそーかで、うすぐーらい美の空間に、
シャカー、かしゃ、シャカー、シャカー、カシャと
観客たちのスマホのシャッター音があちこちで鳴り続けるというのも
なんだか、とても不思議な光景だった。
ひょっとしたら、これも計算されたアートかしら?

 

ま、いずれにしても、贅沢で夢見心地なひと時はあっという間に過ぎ
気がつけば、閉館間近になっていたのだった。
脳みそフワフワ状態のまま、美術館を後に一歩外に出る。

 

そこにはクリスマスソングが鳴り響く街と、師走の慌ただしさが待っていた。
さ、早く帰らなきゃ。

 

(杉本博司『趣味と芸術―味占郷 / 今昔三部作』)

 

Photo  by Satoko Okudaira

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